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2006年05月09日
槍ヶ岳北鎌尾根山行記録(2006.4.29-5.4)
雪崩、落雷、突風、ホワイトアウトなどなんでもありの山行でした。この映像はビデオ作品「陽春の北鎌」としてアップしています。
山域 : 槍ヶ岳北鎌尾根
参加者 : 高橋友孝(横須賀嶺朋会)、末次浩(Original CV)
行程 :
4月29日 上高地 ~ 横尾
4月30日 横尾 ~ 水俣乗越 ~ 北鎌沢出会い
5月1日 北鎌沢出会い ~ 北鎌沢右俣 ~ 北鎌コル ~ 独標の下のコル
5月2日 停滞
5月3日 独標の下のコル ~ 独標 ~ 槍ヶ岳山頂 ~ 横尾
5月4日 横尾 ~ 上高地
山行記録 :
4月29日 上高地 ~ 横尾
快晴。2年前のGWに上高地に来たとき、残雪などなかったように思う。しかし、今年は残雪が多い。横尾までの道のりでも多いところでは1mぐらい除雪作業がなされていた。また、登山客が極端に少ない(GWの後半は多くの登山客が詰め掛けたが・・・)。よって、横尾まで快適にプロムナードを楽しんだ。
横尾手前でご夫婦に挨拶をしたところ、雪の多さと登山客の少なさについて、同様な感想をもたれていたようだ。しかし、雪の多さについては槍ヶ岳山荘のホームページで事前に情報を入手していたとのことで、これから北鎌を目指す私たちがそのような情報も知らないなんて、と、ちょっと叱られてしまった。
横尾でテントを張ると、初日だからということで、シェフ・ユーコーが腕自慢の料理を披露。こちらも「酔っ払う前に美味しい料理を味わって食べてよ。」とまたまた叱られてしまった。
4月30日 横尾 ~ 水俣乗越 ~ 北鎌沢出会い
曇り。気温が高い。天気は下り坂に向かっている。横尾を出発してトレースを進むが、雪は相当に腐っている。 そして、まずは最初の不安地点、水俣乗越の登りだ。大曲りを経て、槍沢との分岐点であるが、1本のトレースが残っている。これを辿っていけばよいのだろうか。しかし、トレースは雪崩れている沢の左岸を通っている。気温が高いので、この雪崩れている沢に近づきたくは無い。また、右前方の稜線の方がコルが低いような気もするので、そちらの方へ回った方がよいのだろうか。
所詮は春山。雪があるところはどこでも歩ける。樹木があるところは雪崩れの確率が少ない、ということで、正面の樹木のある小さな尾根を上り始めた。ところが案の定、深いラッセルである。傾斜がきついので腰まで埋まる。足で踏み固めるというよりは、膝をのめり込ませて膝から下全体で雪を抑えるという感じ。ま、匍匐前進である。体力あってのモノダネだ。
雪崩れている沢を左に見ながら稜線まで詰めると、そこはドンピシャの水俣乗越であった。先のトレースもここを通っている。まずは一安心。天上沢は雪で相当に埋まっていて降りの傾斜は緩やかだ。一気に駆け降りる。
この天上沢の広い河原に出ると、雲が上がり青空が見えるようになってきた。ここの歩きは数歩進むと足の付け根まで雪にもぐりこむ。もう嫌になってきた。ラッセルしっ放しで疲れたことだし、銀マットを広げて大休止をすることにした。この広い河原を私たち二人だけで貸しきれるなんてなんと幸せなことだろう。そして、雲はぐんぐんと上がり、北鎌尾根、槍ヶ岳の全容が見えてきた。素晴らしい!
お座敷をたたんで、北鎌沢出会いへ向かう。ユーコーさんがこっちを向いて、ここだよ、とリュックを下ろした。私はその沢を見て過剰反応してしまった。「絶対、ここじゃないよ。北鎌沢右俣は他にあるはずだよ。ここ、全部雪崩れてるじゃないか。」
その後、広い河原を下流に下って、沢を捜したがそれらしいものはない。北鎌沢右俣はまさに雪崩れているそれだったのだ。午後3時。気温も高いし、これから登るのは危険だということで、この北鎌沢出会いでテントを張ることにした。
5月1日 北鎌沢出会い ~ 北鎌沢右俣 ~ 北鎌コル ~ 独標の下のコル
朝方までずっと雨が降っていた。朝になって雨は上がったものの気温は以前高い。朝方、気温が下がって雪がしまっているうちに北鎌コルまで登ろうと思っていたが・・・。
朝5時に出発。朝だけど雪はほとんど締まっていない。なんか嫌な感じ。私は左岸沿いに登り始めた。上部を見ると雪崩れの本流は右岸の支沢から発生しているように見えたからだ。
ここでまた悩ましかった。雪崩れているところを避けて樹木のあるところを通ろうとすると、雪が腐っていて悪いところでは胸までのラッセルを強いられる。すごく時間がかかるのだ。かといって、雪崩れているところを通ると、雪は締まっていて早く登ることができるが、いつ何時、本流の雪崩が襲ってくるかわからない。
登りは遅遅として進まない。8時前には融雪が起こり始めた。最初はころころと流れていたが、数十分後にはシャーと上部から雪が流れてくる。北鎌沢の4分の3は登っていると思うけど、なかなか稜線まで出ない。それもそのはず休み無しのぶっ続けで3時間ラッセルしているのだ。へばっていた。また、北鎌沢の上部は昨日の雨で相当に水分を含んだゆるい雪だ。
気温が上がってきて、本流だけではなく、支沢からも融雪が起こり始めた。次々に雪が流れてくる。そのとき、頭の上でシャーという音が聞こえた。見上げると私の方へ雪が落ちてくる。ユーコーさんが「右へ逃げろ!」と叫んだ。ところがラッセルした右足かかとが雪に埋まって抜けない。「抜けないよー。」 頭や肩にどぼどぼと雪がかかる。仕方が無い、流されないよう確保体制をとろうと思った。ユーコーさんから再び「早く右へ逃げろ!」と檄が飛ぶ。もう必死だった。やっとの思いで右足かかとを雪から抜き、右へ逃げた。時間的には数秒ぐらいのことだと思うが、ものすごく長い時間に思えた。
その後も支沢からの融雪に注意しながら稜線へ飛び出した。ところがこの稜線がまさにナイフエッジ。ナイフエッジの先端に足を置いて力を入れようとすると、ずぶずぶと埋まってしまうのだ。このまま天上沢か、或いは、千丈沢に転げ落ちるのではないかと不安がよぎる。抜き足、差し足でそーっと歩いた。少し広いところへ出て漸く落ち着いた。
後からユーコーさんが登ってきて、危なかったという。私がナイフエッジを通っているとき、そこからコロコロと落ちた雪がその後広がり10mの幅で雪崩れたというのだ。ゾーッ。もし、私が稜線に出る時間がユーコーさんよりもう少し早かったなら、或いは、ユーコーさんの登るスピードが私よりももう少し遅かったなら、私が誘発した雪崩でユーコーさんが流されていた可能性があるのだ。ヤバイ。これは本当にやばかったよ。
北鎌沢を抜けるのに4時間かかってしまった。時間的なロスをしたということもあるが、それ以上に体力的、精神的に疲れてしまった。とはいえ、再び歩き始めた。稜線を歩き始めても雪は腐っており、相当なラッセルを強いられた。また、ガスっていて自分たちの位置がはっきりとわからなかった。相当に高度を上げたように思うが、はっきりとしたピークは越えていないように思う。いや、今年は大量の雪で埋まっているので、ピークを見逃しているのかもしれない。そうこうするうちに、明らかに大きなピークとわかる下にやってきた。午後3時。
これから頑張ってこのピークを抜けることはできるが、その先がどうなっているのかがわからない。今日は疲れているので、ここでビバークしようということになった。日没まで時間はある。稜線で大きな雪の穴をゆっくりと掘り始めた。両サイドに雪壁を作ってテントを張った。
しかし、この日はこれで終わらなかった。
日が落ちてから、生暖かい空気の上に寒気団が入ってきた。風が強まり、雨が激しくテントを叩いた。そして、遠くからドーンという音と共に本命がやってきた。
ここは槍ヶ岳直下の痩せ尾根の上。下界に比べれば落雷確率は何百倍高いのであろうか。そして、しまった。テントを押えるためにピッケルは外へ立てたままだ。
シュウシュルルルルル、ドーン。ピカッ、ドドドドーン。・・・・・・・・・・・・・・・・。
怖いといっても仕方が無い。観念した。
「神様、私はこれまで身勝手なことばかりやってきました。それでもまだこの世の中に対して私が役に立つというのならば、もう少しお時間をお与えください。もし、その価値がないというのならばご遠慮なく昇天させてください。 そして、追加でお願いがあります。北アルプス全体をスピーカーにしてのドルビー効果は効きすぎです。こちらは十分にびびっていますので、もう少し音量を抑えていただけないでしょうか。また、閃光につきましても民放の指針に則った人害を与えない程度の明るさにしていただくと助かります。」
今日、無事にこの記録を書いているということは、私にもまだ世の中に役に立つようなことがあるということだと思う。
5月2日 停滞
昨夜の雷は治まったが、天気はぱっとしない。午前11時までに回復しないのならば停滞しようということになった。その午前11時が来た。テントの外は明るいが、ホワイトアウトしている。ただでさえ、自分の位置を掌握していないのに、このホワイトアウトでは行動しない方がよい。雪庇を踏み抜いても大変だ。
そうそうと停滞を決めて朝から残っていたウイスキーを飲んだ。2度3度と薄めてなるべく長くもつようにしたが・・・。残りの食料はパン4個とチーズ。後は行動食だ。
5月3日 独標の下のコル ~ 独標 ~ 槍ヶ岳山頂 ~ 横尾
昨晩はぐっと冷えた。一晩中風が強くて心配したが、陽が上がるとともに風はぴたりと治まった。絶好の日和である。雪は締まっていて歩きやすい。早速、目の前にあるピークに取り付くが、朝一番ということでロープをつけることにする。
このピークを登ると槍ヶ岳が見えてきた。コンディションは最高なので、後は楽しく登るだけだ。この2日間苦労したことが報われた。神様、本当にありがとう。
5月4日 横尾 ~ 上高地
朝、横尾のテント場で、清水さんに会った。完登を祝福していただき素直に嬉しい気持ちになった。清水さんと別れ、上高地まで雑踏の中を足を引きずりながら降りた。2006年のGWもこれで終わった。