[撮影四方山話] 静けさと無音状態
- オリジナル・シー・ヴイ代表の末次です。
五月雨(さみだれ)の「さ」は古来の田植え時期を、そして、「みだれ」は水垂れで雨を意味するといいます。新暦では6月頃をいうのでしょうか・・・。
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<目次>
1.[撮影四方山話] 静けさと無音状態
2.先月のイチオシ!! ビデオ作品 → 「A Wedding Proposal」
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1.[撮影四方山話] 静けさと無音状態
閑さや岩にしみ入る蝉の声 松尾芭蕉
この有名な一句からもわかりますように、静けさ(閑さ)を感じるためには「蝉の声」のような比較する音が必要になります。
私たちが日頃生活している環境は静かだと思っても無音状態ではなく、何かしらの音が常に聞こえています。例えば、今、真夜中ですので、私の部屋は静かですが、それでも、冷蔵庫の音や、外ではまだ暗いというのに林の中からカラスの声が聞こえています。
一方、無音状態とはどういう環境で生じるかというと、防音室ようなところが挙げられます。四方を防音壁で囲まれていて、外部からの雑音が一切遮断されているところです。
例えば、音楽ホールや映画館、そして、試写室などです。
しかし、そこは無音状態であるにも関わらず、あまり静けさを感じません。逆に、まったく音がしないという状態は非日常的なことであり、何かしら不安な感じを与えます。
つまり、心理面から見ると、松尾芭蕉の静けさ(閑さ)は心の安らぎを感じますが、逆に、無音状態は心に不安を与えて、緊張感を増長させます。
さて、次のビデオ作品はただでさえ緊張する一世一代の大舞台を、無音状態というさらに緊張感を増長させた試写室で行なったという話です。
2.先月のイチオシ!! ビデオ作品
作品名「A Wedding Proposal」
制作 東京都男性
作品時間 22分
その日は勤勉な日本人の中でも、更に勤勉さを必要とされる職場の仕事納めの日でした。通常ならば、職員全員で飲み屋に直行して打ち上げとなるはずですが、その日の職員は都内の試写室に集まりました。
職員と関係者が揃ったところを見計らって、銀幕に映像が流れ始めました。
試写室のマナー、映画著作権保護を求める映像が流れた後、ブザーが鳴り、いよいよ試写会のスタートです。
10数本の映画やアニメのサビの部分が次々に紹介され、それはどれもひとつのテーマを表していました。
そして、次にいよいよ本日の主人公である彼の登場です。大学時代の映像や写真を織り交ぜながら、彼とその彼女の記録を追っていきました。
そして、その映像も終わり、試写室は一旦、真っ暗となりました。
試写室の照明を入れるスイッチがカチッと鳴り、試写室の中央に彼と彼女が職場の皆さんを前にして立ち上がりました。このとき、試写室に何かBGMを流しておいてあげれば、まだ良かったのでしょうけれど、実際は職場の皆さんも固唾を呑んだまったくの無音状態。
緊張感が試写室を覆い尽くし、息が出来ないような圧迫感を誰もが感じていました。
勇気を出して、彼は彼女の手を取り、一語一語噛み締めるように彼女に話しかけました。彼の頭の中では何万回も練習して来たのでしょうが、漲る緊張感に、突然、彼の頭は真っ白になってしまいました。
限りない沈黙。緊張感は試写室の扉を蹴破って、外に爆発しそうです。
彼は失った言葉を取り戻すために、一旦、彼女の手を離し、自分のカバンの中を夢中に捜しました。書き留めておいたカンペを見るためです。
そのとき、試写室の席に座っている職場のある人は顔を背け、ある人は頭をうなだれ、ある人は目を閉じて、無限のじれったさに耐えていました。
(・・・何をやってるんだ。・・・頑張れ。・・・もう少しだ。・・・もうひと踏ん張りだ。)
試写室にいる職場の全員が手に汗をかき、彼と同じ緊張感に耐えながら、彼を応援していました。この瞬間、職場の皆さんの心のベクトルは強烈な磁力を発する彼の心のベクトルとまったく合致していたと言えます。
彼は再び彼女の手を取り、彼の真摯で誠実な彼女に対する気持ちを語り終えました。そして、彼女は彼のプロポーズを受け入れました。
彼は両手を高々と上げて、職場の皆さんに彼の喜びを表現し、職場の皆さんの前で彼女と抱き合いました。それがまったく自然な流れで純粋に美しいものでした。
職場の皆さんの歓喜も凄まじく、試写室が職場の皆さんの雄叫びに染まると同時に、限りない安堵感に包まれました。
私はこの作品を編集しているとき、彼はつくづくすごいなあと感じました。もし、同年代の私だったら、上司の提案であると言ってもプロポーズをこのような形で行なうことを受け入れていないでしょう。
しかし、彼は上司の提案を受け入れました。そして、彼女も彼を受け入れました。
このお二人にはローマ時代のカエサルと同じようなclemente(寛容な)資質を感じます。この資質は誰もが持っているものではありません。
この資質を活かしながら、これから、お二人の大きな夢が大きく実現することを心より願っています。