[撮影四方山話] タイ・プラナン
- オリジナル・シー・ヴイ代表の末次です。
寒いです。皆さん、お体にお気をつけて。
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<目次>
1.[撮影四方山話] タイ・プラナン
2.先月のイチオシ!! ビデオ作品 「Climbing and Diving in Thailand」(前編)
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1.[撮影四方山話] タイ・プラナン
前回、前々回の記事が好評のようなので、しばらくこの路線で書いてみたいと思います。
2度の旅行会社によるトレッキングツアーに参加した後、もう旅行会社に依存する旅は卒業かなと思いました。下手なリにも片言の英語が話せないわけではないので、後は自分で企画して仲間たちとの旅を切り開いていけばいいわけです。
そして、山歩きのトレッキングも卒業して、これからは岩登りのクライミングの話になります。
次に目指すはタイのプラナンでした。ここの岩質は石灰岩になります。
クライマーに岩質の話をすると、それだけでそのエリアがどのような形状であるのか、すぐにわかります。ここら辺のニュアンスが一般の人達とかなりかけ離れているわけで、このギャップを多少なりとも埋めておかなければなりません。
日本で石灰岩というとまず、鍾乳洞を思い起こすのではないでしょうか。
天井からつらら状に伸びて来る石をつらら石といい、その真下で地上からニョキニョキと伸びて来る石を石筍と言います。
さて、タイ・プラナンではこれが洞窟の中ではなく、海岸の岩壁で起こるのです。亜熱帯の雨の多いこの地域ではつらら石が化け物のように大きくなり、石筍は海で洗われますのでそこに何も残りません。
つまり、高さ100メートル以上、長さ数キロメートルにわたる東西の海岸線に巨大なつらら石が延々と続いているのです。
その少し南に小さな石灰岩の島があると想像して下さい。海岸線と島の間に洲ができ、それが次第に大きくなって陸地となり平坦な砂浜が出来ます。そして、島が岬となって、小さな半島の完成です。
その半島全体をプラナンと言い、平坦な砂浜をライレイと言っています。このライレイに掘っ立て小屋を作って住み始めたのがクライマーなのです。
ところがそのライレイに行くためには海岸線が岩壁で道路を作ることができませんので、ボートで行くしかないのです。東の町クラビからは40分、西の町アオナンからは10分ほどの船旅です。
現在のように開発が進んでいなかった当時は本当に自然の美しいところでした。
朝は東の海から陽が昇り、夕方は西の海に陽が沈みます。海はエメラルドグリーンで澄んでおり、サンゴがいっぱいでした。潜るとクマノミに到るところで出会いました。ガラパゴス諸島で見るような大きなトカゲもときどき出て来ますし、サルもいっぱいいます。
クライミング最高! ダイビング最高! 食事は安くてうまい。 タイ・マッサージに行って1時間もんでもらっても料金は800円。こんな世界、どこにあります。これをパラダイスと言わずして何と言うのでしょう。
2.先月のイチオシ!! ビデオ作品
作品名 「Climbing and Diving in Thailand」(前編)
制作 末次浩
時間 44分
1998年当時はまだインターネットの黎明期。タイ・プラナンの情報を検索しても何も出て来ません。私たちが行こうとしているところは辺鄙なところなので、「地球の歩き方」に載っているわけでもないのです。
ある情報と言えば、タイ・プラナンに行ったことがあるというクライマーの話とその人からコピーしてもらった数枚の紙の情報だけ。
事前に宿泊先を予約出来るはずもなく、すべては現地についてからの交渉次第。ワイルド、そして、いかにもワイルドそのものなのです。
今回の旅はAさんと私の二人だけ。
当初はインドを一人で放浪していたという旅慣れたBさんと二人で行く予定でした。そこに年配のAさんも行きたいというのでメンバーに加わりました。ところが、出発前にBさんが怪我をして行けなくなり、再び二人になったのです。
旅に不慣れな二人だけでは不安でしたが、Aさんの行きたいという強い意志で、この旅が実現することになったのです。
それはそれはあまりにも珍道中過ぎて、一生、私の記憶から消えることはないでしょう。つまり、これによって本当の旅の醍醐味を知ることになったのです。
成田を出発して飛行機の中でたらふくビールを飲んだ後、夕方5時頃にタイ・プーケットに到着しました。空港のロビーを出て、すぐにアオナンまで行ける白タクを捜すのですが、これも交渉事。
決まった値段があるようで無いのと同じ。安さと安全さのシーソーゲームをドライバーの目や仕草で信用できるかどうか判断します。そして、ドライバーを決めて、いざ出発。
情報によるとアオナンまで2時間ほど。白タクに乗ったのは陽が暮れる頃。街中を抜けて、周りがヤシの木のジャングルのようなところをひた走ります。そして、陽が完全に沈んで真っ暗となった中でも車は暗闇を突っ切って延々と進んで行くのです。
”このドライバー、本当に無事に連れて行ってくれるのだろうか。もし、こんなところで降ろされでもしたら、決して生きて帰ることなんてできない。”
Aさんも私と同じようなことを考えていたようで、二人でビビッていたのです。
2時間後、真っ暗な暗闇の中から、突如、ネオンが輝く街に入りました。
アオナンに到着です。でも、これで終わったわけではありません。泊ることの出来るバンガローを捜さないといけないのですが、私たちには何もわかりません。ドライバーに頼んで、捜してもらうことにしました。
1軒目、2軒目、3軒目・・・。クリスマス前のこの時期、一番混む頃なのでどこのバンガローも空いていないんです。ドライバーの機転で、アオナンを諦めて、もうひとつの町クラビに行くことにしました。そして、クラビの小さなホテルに空室があることを知り、そこに漸く泊ることが出来たのです。
次の朝、ここから船に乗ってライレイへ向かいますが、その前にライレイのバンガローの予約をどうしても取っておきたかったのです。昨日、アオナンのバンガローが泊れなかったこともありますし、ライレイに行ってからバンガローに宿泊出来ないとなればみじめ過ぎます。
ある旅行代理店に入ると、当時日本では毒カレー事件の話題で騒がれていましたが、その容疑者の顔とそっくりなオバサンがそこに座っていました。
「ライレイのバンガローの予約をしたいんですけど・・・。」
面倒くさそうにこちらをじっと見て、
「今頃来ても空いてないよ。空いてるのは1泊2000バーツのホテルだけさ。」
「エッ。」
紙切れの情報によると1泊600-800バーツぐらいと聞いていたので、それぐらいのお金しか持ち合わせていません。
(注: 現在、ライレイはリゾート地に変貌していますので、バンガローといえど2000バーツを下回る部屋はないと思います。1バーツ=4円程度。)
どうしようかと悩んでいると、Aさんが来て、
「まず、メシでも食おうや。」
その旅行代理店から出て、コーヒーショップに入り椅子に腰かけました。
Aさんは私をなだめて、
「末さん、どうにかなるよ。」
私はトーンを半分上げ、声を裏返らせて
「どうにもならないよ。」
この瞬間、おっとりしたAさんと心配性の私の二人の名コンビが出来上がったのかもしれません。
コーヒーショップから周りを見渡すと、他にも旅行代理店がいくつかありました。気を取り直して、もうひとつの旅行代理店に入ると、
「ライレイのバンガローの予約をしたいんですけど・・・。」
二つ返事で、
「いいよ。7日間ならば1泊750バーツの部屋があるよ。」
「はい、予約します!」
空いてるじゃん。これまで暗かった顔が突如、満面の笑みに変わりました。滞在する予定は10日間でしたので、3日間ほど足りませんが、それは現地へ行けばなんとかなるでしょう。急に希望が湧いて来てすべてが明るく輝く世界に見えて来ました。
人間なんて、そんなもんでしょう。ちょっとしたことで天と地の差が出てしまうんです。
そして、ボートに40分乗って、ライレイの南にあるプラナン・ビーチに上陸しました。
そり立つようなオーバーハング。お化けのようなコルネ(つらら石)。そして、透き通ったエメラルドグリーンの海。
想像をはるかに超えた美しい世界がそこに展開していたのです。
”ここに1週間も滞在できるなんて・・・”
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20年前のプラナンの映像(1分30秒ほど)。
https://www.originalcv.com/climbing/1606videoWorks/aWork/index.php?wnum=1