[撮影四方山話] 両生類感覚
- オリジナル・シー・ヴイ代表の末次です。
お彼岸過ぎて、いよいよ春本番です。
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<目次>
1.[撮影四方山話] 両生類感覚
2.先月のイチオシ!! ビデオ作品 「PHRA NANG 2000」
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1.[撮影四方山話] 両生類感覚
川や海の撮影のとき、映像カメラクレーンを使って、陸上から水中に入っていくシーンをご覧になられている方も多いのではないかと思います。なんとも不思議な感覚を持つシーンです。
映像カメラが陸上にあるときは鳥が飛んでいたり、木が風で揺れていたりするのですが、映像カメラがザブンと水中に入るとそこにはたくさんの魚が泳いでいます。
スクーバ・ダイビングを体験すると、この感覚が実際に味わえます。両生類になった気分ですね。
タイ・ピーピー島で”体験ダイビング”をした私は翌年のタイ・プラナン行きを目指して、初心者向けのスクーバ・ダイビングのライセンスを取得することにしました。つまり、PADIのオープンウォーターコースを受講したのです。
このコースは本当によく考えられていて、スクーバ・ダイビングの知識と経験を積むには最善の方法だと思います。1日はプールで、2日間は海に入っての実習だったと思いますが、受講者をいきなり潜らせたりはしません。徐々に徐々に水に馴染ませて、少しずつ少しずつ深く潜っていくようにカリキュラムが組まれています。ですから、耳抜きが苦手な人も徐々に対応出来るようになります。
私が受講した初日、驚きました。
受講者はたくさんいたのです。まず、インストラクターが声をかけました。
「皆さん、どのような方法でもよいので、このプールの向こうまで泳いで行ってください。泳げない方は歩いていってもいいです。」
私は平泳ぎなり、クロールなどで25メートルのプールを泳いでいったのですが、なんとまったく泳げない女性も複数受講していたのです。泳げないのに、スクーバ・ダイビングのライセンスを取得しても大丈夫なの? 結果的には受講者全員がライセンスを取得しましたからOKなのでしょう。
それにしても違う世界というのは面白い。普段、陸上で生活している私たちが水中に入ると、まったく予想していないシーンに出会うことがあります。
あの泳げない女性がレギュレータのマウスを加えて潜っていたのですが、海上に頭を出した時、もどしてしまいました。余程気分が悪かったのでしょう。陸上では「あーあーあーあ」となるところですが、海では違います。小魚が彼女のところにたくさん寄って来て、彼女が出したものをものの見事に全部食べてしまいました。あっという間のことです。海の浄化作用というのでしょうか・・・。
そして、私が最も気に入っていた浮遊感覚。手足をバタバタさせずに水中に留まっているだけのことなのですが、これがなんとも気持ちがよいのです。アクアラングから肺に酸素を吸い込みますが、肺は浮袋と同じなんです。息を吸うと浮上しますし、息を吐くと自然と潜っていきます。数メートル程度なら呼吸だけで潜ったり浮いたり出来ます。
茶の間のテレビしか見ていないのに、世界中のことを全部知っていると思っているあなた。両生類体験のような未知との出会いは驚きと共に、あなたの気持ちをリフレッシュしてくれるはず。閉じ込められた世界から抜け出して、新しい息吹を感じてみませんか。「百聞は一見に如かず」ですよ。
2.先月のイチオシ!! ビデオ作品
作品名 「PHRA NANG 2000」
制作 末次浩
時間 37分
昨年の”体験ダイビング”で懲りた私はPADIのオープンウォーターのライセンスを取得し、今年こそは満足の出来るスクーバ・ダイビングをしようと意気込んでいました。
今年(西暦2000年)のタイ・プラナン行きも、昨年と同様にメンバーはAさんと私の二人だけ。珍道中コンビは相変わらず健在でした。
プラナンに滞在を始めて、最初のクライミングのレスト日に、いよいよスクーバ・ダイビングをすることにしました。ライレイビーチではフランス人のインストラクターがダイビング・スクールを開いていましたので、そこに参加することにしました。
その日、器具一式を載せてボートに乗り込んだのはインストラクターであるフランス人夫妻、アドバンスドコースを受講しているドイツ人カップル、そして、初級コースを楽しむ日本人のAさんと私の計6人でした。会話は英語で行いました。なんだか不思議ですね。
ライレイビーチを出発して、沖合いの小さな島の岸壁沿いにボートを留めました。しかし、そこは入り江ではなく外洋なので、ボートは波間に揺られ、そしてまた、揺られます。1本目のダイビングを終えたAさんと私は、アドバンスドコースを受講しているドイツ人が上がってくるのを待っていたのですが、その間に完ぺきに船酔いしてしまいました。二人の顔は青白いというよりも土色をしていました。
持参した昼食を見る気もしない。2本目のダイビングなんてしなくてよいから、さっさとライレイビーチに引き返して欲しい。
そこに1本目のダイビングを終えたドイツ人たちが上がって来たのですが、「こんな美しい海は見たことがない」と目を輝かせ、楽しさではち切れないというように興奮していました。私ら二人とまったく対照的でした。
その後も、2本目のドイツ人たちのダイビングが終わるのをボートの上で待ち続けるこの苦しみ。どうも私にとって、タイでのダイビングは相性が悪いという一言に尽きました。
そして2回目のタイ・プラナンの旅も最終日を向えるという日、タイワンドウォールというクライミングエリアのマルチピッチを登ることにしました。6A+ 25m, 6B+ 25m, 7A 45m, 6B 28mという薄かぶりの前傾壁が100m以上続く、日本では見ることが出来ない豪快なルートです。登り切った後は40m,40m,55mの3回の懸垂下降で降りて来ます。最後の55mは完全に空中に飛び出る空中懸垂となります。
が、しかし、この年に持参したロープ2本の長さは60mと50mだったのです。
すぐに、「最後の空中懸垂はロープの長さが5m足りなくなるね」と分かりそうなもの。「そんなこと考えなくたってわかるよ」とクライミング仲間からお叱りを受けるのはごもっとも。
私たち二人はプラナン・ボケをしていたんでしょう。何の不安も持たずにこのルートにトライし、登り切ったのです。1回目40m、2回目40mの懸垂下降を終え、最後の3回目55mの懸垂下降に入ろうと私が先に降りようとしたときでした。
50mロープの末端が空中でゆらゆらと揺れているんです。
「Aさん、ロープが下に着いてないよ。」
あっと、その瞬間始めて、55mの懸垂下降で50mのロープを使ったら、5m足りなくなるということに気付いたのです。
「馬鹿だね~。どうすんの?」
目を凝らして下方の壁を観察していると、豪快な空中懸垂が始まるその直前のところに、他のルートの下降ポイントがあることに気付きました。そこまで10m程です。
「あそこまで降りて、懸垂支点を作り直せば、無事に降りられる。助かった~。」
クライミング事故の約半分は懸垂下降時に発生しており、そのほとんどが死亡に繋がる大事故になっています。このような大チョンボがあって以来、私は懸垂下降時には2重にも3重にも4重にも注意をする習慣が身に付きました。
ヒューマンエラーは必ず起きる。だからこそ、ダブルの安全確保が必要。わかり切っていることを確実にやる習慣こそが身を守る秘訣なのかもしれません。
3分ほどの映像です。プラナンのクリスマスの夜。そして、タイワンドウォールのクライミングと懸垂下降のシーンも見れます。
https://www.originalcv.com/climbing/1606videoWorks/aWork/index.php?wnum=4