作品名「稲葉正先生 最期のご挨拶」
編集 Original CV 制作 池田浩隆様
作品時間 72分- 東北大震災の影響もあり、関係する皆様へのDVD配布が随分と遅れてしまいました。ここで改めてお詫び申し上げます。
一昨年、「稲葉先生の米寿出版記念の会」が催されたとき、多くの教え子の皆さんから、先生のお元気な姿が末永く続きますように、と言葉をいただいたばかりだった。まもなく、先生は安らかに永眠された。
その告別式が行われたとき、先生が生前、オーディオテープに録音していた「最期のご挨拶」が流された。先生はいつかは来るであろうその日を予想され、密かに準備していたのである。
「これは私がこの世の中にいなくなるということについて、皆さんにご挨拶を申し上げるのでありますが、私が死んだからと言って何ということはないので、いつか来ることに違いないので・・・。
しかし、人間の想像力というものはまことに貧困なもので、そういうときが必ず来るのに、その状況というものを想像する力は非常に限られております。
だから今、今晩家内がいないのを幸いに、いつかはやらなければならないということなので、この録音を始めたわけですが・・・」
このように始まる録音テープに収められていたものは、先生が別離の気持ちを詩的なものでありたいと願って語られた蓮如上人の「白骨の御文章」と「仏説阿弥陀経」の解説であった。
先生はわかりやすくお話をされているのだろうが、凡人の私たちにとって一度聞いたところで理解できない。
そこで、制作者の方と相談し、この録音テープの先生の声を聞き取り、文字化しようではないかということになった。教え子の皆さんにとって、この作業は先生の最期の講義になったのではないかと思う。
数人の教え子の皆さんで手分けをして始まったこの作業はすぐに終わるはずだった。ところが、相当に困難なものになってしまった。
日本語には同音異義語がたくさんある。同音でも間違った語彙を選択すると意味がまったく変わってしまう。99%は終わったのだが、残りの1%が暗礁に乗り上げてしまった。
これを解決するには、先生がテキストにしているまさにその本を入手するしか道は無い。すでに廃刊となっているそのテキストが入手できないか、インターネットで調べ上げた。長崎にある古本屋のひとつにそのテキストあることがわかったので、そこからやっとの思いで入手したというわけである。
このようにして出来上がったこのビデオ作品だが、天国にいらっしゃる先生は私たちのこのような努力をご覧になって、案外微笑んでいるのかもしれない。 - メールマガジン No. 105 2012-05-01