作品名「**さんとの一日」
制作 Original CV
作品時間 13分- 2年ぶりに**さんのところへ訪問した。
**さんは人工透析を始めて6年になり、今では週3回の透析を行っている。ご本人のご苦労は並大抵のものではないと思うが、それを看病する奥様のご努力もそれ以上に大変だ。
今ではゆっくりと歩くことはできるものの、車椅子の生活の時間の方が長い。
とはいえ、このような大変な生活をしているこのご夫婦だが、不思議とこのお二人に暗さというものがない。持っている天性の素質と言ってしまえば、それまでだが・・・。
さて、私たちはこのお二人を後部座席に乗せて、ドライブに行く事にした。「行ってみたい場所は?」と尋ねると、「田舎の家」だというのでそこまで足を伸ばした。途中の街道の桜並木は3分咲きだ。
「田舎の家」に着いた。ご本人は「ここから見ているだけでよい」とおっしゃるので、後部座席に座ったままで、奥様が私たちを庭に案内した。それでもご本人は奥様を呼び出し、「椎茸はどうなっている?」、「わらびは出ているか?」などと自然の息吹に対する興味は尽きない。
再び、車に乗り、春の眩しい海岸を見ながらドライブし、ある温泉街のレストランに入った。
ご本人は食事制限があるため、メニューの中から奥様が瞬時にカロリー計算をして、本日のランチの内容が決まった。
お二人との会話は楽しい。世界中を旅しているだけあって、話題が豊富だ。
「旅は行けるときに行っておくべきだし、お酒も飲めるときに飲んでおくとよい。」という何気ないご本人のお言葉は中身がずっしりと重い。
レストランの窓越しに外を見ると、桜が満開となっていた。
「この桜は私たちのために開いてくれたなあ。」
ご本人のぽつりと語る言葉が心に残った。 - メールマガジン No. 106 2012-06-01