作品名「西上州・御場山西ルンゼ アイスクライミング」
制作 Original CV
作品時間 44分- 西上州は空っ風で冷え込むところが多く、良い氷瀑がたくさん出来る。
氷瀑とは凍った滝のことである。つららがカーテン状に広がった見事なものもあるし、大きな滝がドーンと凍ったものもある。
その自然の恵みである氷瀑を黙って指をくわえて見ていないのが、クライマーという人種だ。
ご存知の通り、私はその特殊な人種をビデオ撮影することが仕事であり、また、ライフワークであるとも思っている。冬はコタツで丸くなっているという人から見れば、私も変な人種を撮るさらに変な人間なのだろう。
さて、今回は御場山に出かけた。ご一緒させていただいた70歳に近い大先輩の話によるとこの辺りも平家の落人が住んでいたらしい。雪の斜面を分け入って、沢筋に入る。しばらくするとF1が見えて来た。
今回はF1,F2,F3と3本の滝を登る。F1の取り付き点で氷を登るための準備をする。登山靴にはアイゼンを付け、両手には氷に打ち込むためのアックスを持つ。
私はそれ以外にビデオカメラを持って準備完了。いざ登攀となった。
手がかじかむ中でF1を登り、その途中からクライマーを撮影する。F1を登り切ったところからF2まで歩いていくが、今年の西上州の雪は例年になく多い。とんだラッセル(雪をかいて進むこと)となった。
ラッセルで思った以上に時間がかかってしまい、F3を登り切り、これから下降するという頃には真っ暗となってしまった。
リーダーからヘッドランプを出すように指示があった。
このとき、私はビデオカメラ以外には何も持っていない。というかF1の取り付き点に私のザックを置いて来ているのだ。そのザックの天蓋にヘッドランプが入っているが、今はない。
「何やってるんだ!」 リーダーから喝が入る。
誰しも昼過ぎには帰るつもりでいたので、こんなに時間がかかるとも思っていなかった。これがアルパインの恐ろしいところだ。私も最近はゲレンデ・クライミングしかしていないので、まったく油断していたとしか言いようがない。
それ以降、私は常にヘッドランプを胸ポケットに入れることにした。帰りの温泉に寄っても、夕食のレストランに入っても私はヘッドランプと共にあるのだった。 - メールマガジン No. 115 2013-03-01