作品名「瑞牆山・大ヤスリ岩」
制作 Original CV
作品時間 36分- 奥秩父にある瑞牆山は奇岩が乱立しており、日本の山の中でも極めて独特の個性を持っています。その中でも、この山頂付近にある大ヤスリ岩は最も大きく特徴的で、この岩のピークに一度は立ちたいと思うアルパイン・クライマーは少なくないでしょう。
私たちはゴールデンウイークの前半に瑞牆山へ入りましたが、今年の残雪はすごく多くて驚きました。瑞牆山荘の駐車場から富士見平小屋までは雪がありませんが、富士見平小屋を越えて沢筋まで下る道は北斜面ですので雪が残り、道が凍結していました。アイゼンを持ってない私たちは木を掴みながら恐る恐る沢筋まで下りました。
その後、予定通り、大ヤスリ岩の基部から3ピッチほどのクライミングでピークに立ち、めでたしめでたしで瑞牆山荘の駐車場まで下りてきて、その日、テントを張るみずがき山自然公園に車で移動しました。
そこでテントを張っている最中に気付いたのです。
私のビデオカメラがない!
いつも肩から袈裟にかけていたビデオカメラバックがないのです。どこかに置き忘れたのですが、まず一番にピンと来たのが、富士見平小屋から下った沢筋のところです。そこでハーネスを外したので、そのときにビデオカメラバッグを置き忘れてしまったのでしょう。
すでに夕方の6時を過ぎていたのですが、明朝行くとなると、朝方冷え込んで、沢筋まで下る道が凍結している可能性大です。それなら、夜道であるけれども、まだ雪が緩んでいる今のうちにもう一度戻った方がよい。
私はヘッドランプだけを持って、再び、瑞牆山荘の駐車場まで車で行き、富士見平小屋まで登り、そして、雪の残っている道をヘッドランプを照らしながら沢筋まで下りました。
自分がハーネスを外した地点へいくと、置き忘れていると思っていたところにビデオカメラがありません。 ?????
どこへ置き忘れたのろう? 他に心当たりはありません。
意気消沈して、富士見平小屋まで戻りました。そこで尋ねようかとも思いましたが、7時半ぐらいで夕食を終えて楽しく団らんしているだろう山小屋の中に、もそっと聞きに入るのも気が引けました。
仕方ない。あきらめるか。皆が待っているみずがき自然公園のテント場まで戻りました。
翌朝、「あんな大きなビデオカメラバッグを誰も見落とすはずがないよ。必ずどこかにあるはず。もう一度探しに行ったら・・・。必要なら大ヤスリ岩をまた登ればいいよ。」という皆さんの暖かいお言葉で、再び探しに戻りました。
再び、大ヤスリ岩を登ることも考えられるので、Hさんにも同行していただきました。
まずは富士見平小屋まで行き、扉を開けて出て来た山小屋のおひとりに、
「昨日、ビデオカメラをどこかに置き忘れたのですが、心当たりはないでしょうか。」と伺うと、
「いや、心当たりはありませんが・・・。」という返事。
もう、これは大ヤスリ岩を登って納得がいくまで探すしかないと覚悟を決めました。一旦、凍った道を沢筋まで下り、大ヤスリ岩を目指して登り始めました。
すると、道を整備している富士見平小屋のお兄さんに出会い、ビデオカメラについて心当たりがないか伺うと、
「ああ、このぐらいの黒いバッグに入ったビデオカメラですね。小屋にありますよ。」
「??? 先程、小屋の方に心当たりがないと言われましたけど・・・。」
「いや、確実にありますよ、なあ。」と小屋の他の同僚にも同意を促すと皆さん、首を縦に振っています。
「あ、あればいいんです。助かりました。皆さん、ありがとうございます。」
と言って、小屋まで戻りました。
小屋の扉を開き、先程の方に合うと
「ビデオカメラ、見つかりましたか。」と私が尋ねられました。
「いや、道を整備しているこの小屋のお兄さんに伺うと、ここにあるということですが・・・。」
「えーーー、ほんと?」
そうこうしているうちに小屋のお兄さん達が戻って来ました。
「ビデオカメラはここにありますよ」と小屋の奥から取り出して来ました。
まさにそれです。
小屋の扉にいた方が
「えーーー、私だけが知らなかったの。みんな教えてよ。」
といういわけでシャンシャンと手打ちになりました。
富士見平小屋の皆さんには本当にお世話になり、助かりました。本当にありがとうございました。ロサンゼルスからいらした女性の方もお手伝いされていて、すごく和やかな雰囲気でした。
このメルマガを読んでいる皆さん、機会があれば、ぜひ、親切な富士見平小屋をご利用下さい。
もし、このビデオカメラが見つからなかったら、この100本目のクライミング・ビデオ作品はなかっただろうという話でした。 - メールマガジン No. 130 2014-06-01