作品名「パミールの3つの峠」
編集 Original CV
制作・著作 神奈川ヒマラヤンクラブ
作品時間 76分 (テープ録画時間 360分)- 神奈川ヒマラヤンクラブのメンバーの方からこのビデオテープをお預かりし最初に拝見したときに何かジーンと熱くなるものがあった。
このビデオテープは10年前の1994年にパキスタン北部にあるパミールの3つの峠を撮影したものである。撮影した方は隊員のお一人で、プロのカメラクルーではない。当時の8mmのビデオカメラの技術の限界と、カメラワークの拙さがあるにはある。しかし、そういうテクニックだけの世界ではない、何かもっと大きなものを伝えたいという想いが映像からひしひしと伝わってくるのである。
広大な草原で夏村となっているボロゴル峠(3,804m)、切り立ったU字谷の中に美しい湖をもつカランバール峠(4,343m)、ズィンディハーラム氷河を歩いて越えるダルコット峠(4,575m)。すべてはパミールならではの光景であろう。
しかしながら、この地を踏んだ外国人は非常に少ない。よって、この映像は現在にいたってもその価値をまったく失っていないのである。
また、ここには世界を変えた歴史がある。
8世紀に、東の文化圏である唐と西の文化圏であるイスラム帝国がこの地で衝突した。唐の高仙芝将軍は1万の兵士とともに、ダルコット峠越えの壮挙を果たし、一時、パミールを制圧したが、タラスの戦いで敗れた。このとき、唐の技術者が捕らえられ、初めて製紙法が西側文化圏へと伝えられたのである。
そして、製紙法は10世紀にカイロへ、12-13世紀に神聖ローマ帝国に伝わった。
15世紀にグーテンベルクが活版印刷術を発明すると、16世紀にはルターがこの活版印刷で聖書やビラを頒布し、宗教改革を起こした。同時に、識字率があがり、ヨーロッパの文化レベルは一気に高まった。このエネルギーが16-17世紀の大航海時代へとつながり、そして、18世紀の産業革命でヨーロッパの優位は揺らぎないものとなるのである。
紙という知識を表わす源泉が、このパミールを越えて西側文化圏へ移っていったという事実。ダルコット峠を越えていかねばならなかった兵士達がこの歴史を知ったとすればどのように感じるであろうか。
人里から遠く離れ、厳しくも美しい自然の中にあるパミールにも、歴史は押し寄せていたのである。隊員達は時空を越えてパミールを肌で感じ、そして、その事実を私達に伝えようとしている。
その姿に心が熱くならざるを得ないのである。
このDVDを購入ご希望の方は、神奈川ヒマラヤンクラブ(尾上弘司様spantik@nifty.com )までご連絡ください。 - メールマガジン No. 14 2004-09-01