作品名 「***高校室内楽部定期演奏会」
制作 関東地方女性
作品時間 75分- クラシック音楽のために建てられたコンサートホールは、県民ホールや市民ホールのような多目的に建てられたホールと違って、音響設計に十分に配慮されている構造のせいか、何かしら格式というか、威厳というか、凛とした雰囲気を持っています。
***高校の顧問やコーチの先生は室内楽部の部員たちのために、定期演奏会の場として、初めて、そのコンサートホールを準備したのです。
当日、たくさんの観客がこのコンサートホールに集まって来ました。そして、開演のブザーが鳴ると、観客は声を潜めて室内楽部の演奏に聞き入ったのです。
合唱団、吹奏楽部、OBOGのサポートも受けながら、無事に予定の全曲の演奏が終わりました。
室内楽部の代表者が最後のあいさつとしてマイクを握りました。
「今年の演奏会はこの***ホールという大きな会場で演奏をする機会を得ることが出来たため、多くの皆さんのご協力をいただきながら演奏をさせていただきました。いかがでしたでしょうか。」
会場から大きな拍手が湧き上がりました。するとこれまで張り詰めていた緊張が切れたのか、声を詰まらせました。その瞬間、威厳のあるコンサートホールの雰囲気がにわかに変わりました。
「この1年間、私たちはこの演奏会に向けて練習に励んで来ました。しかし、この日に到るまでたくさんの事がありました。
このような大きな会場で演奏出来ることが幸せだと思うと同時に、わずか22人の部員で実力的にもこの大きな会場に見合う演奏が出来るかどうか、正直とても不安でした。」
代表者の握っているマイクが震えています。
「演奏会に向けての練習がスタートしているのになかなかうまくいかず、途中何度も逃げ出したくなることもありました。上級生で何度も話し合い、意見がぶつかり合い、これから先どうしようと思ったこともありました。
でも、そんな中、コーチや顧問の先生方は少しでも良い演奏会にしようと構成を練ったり、私たちの演奏を指導して下さいました。
下級生はこんな私たちを信じて付いて来てくれました。
そんな姿を見て、自分たちだけが悩んだり、苦しい思いをしているわけではないことを、いろいろな方に支えられていることに気付き、今、自分たちのやれることは精一杯、室内楽を楽しむことだと前を向いて進んでいこうと思いました。
私たちの部員のほとんどは部活に入ってから弦楽器を初めて手にしたような初心者で、決して演奏の高い子ばかりが集まっているわけではありません。
でも、学年の壁を越え、この22人で作る音楽は何にも負けない私たちならではのハーモニーを奏でていると思います。」
それからお世話になり、ご支援、ご協力をいただいた方々の一人一人のお名前を挙げて感謝の言葉を送りました。
「そして、何より私たちの演奏は聞いて下さるお客様があってこそ初めて出来上がるものです。今日、私は皆で一緒に心の底から室内楽を楽しみ、ひとつの音楽を作る喜びを感じることが出来ました。
お越しいただいたお客様にも私たちの音楽を楽しんでいただけたら幸いです。
本日は本当にありがとうございました。」
見事な謝辞です。いや、これ以上の謝辞はないと思います。
もちろん、演奏の中味も大切ですが、演奏を通して育んだ部員たちの絆こそが、私には眩しく輝いて見えます。 - メールマガジン No. 140 2015-04-01