作品名 「蔵王スキー 2015-2」
制作 神奈川県男性
作品時間 40分- ヘイ・オー! ドゥヤ・ドゥヤ・ドゥヤ ヘイ・オー! ドゥヤ・ドゥヤ・ドゥヤ・・・
ジーン・マイケル・プロダクションが製作したこの曲(使用許諾契約済)をどうしてもオープニングに使いたかったのです。
ドラムの重低音とパーカッションの高音がリズムを刻んで、からだ全体を揺さぶります。
真っ青な空に、西に輝く太陽をめがけ、樹氷の大きな影を見る間に小さくしながら滑降していくスキーヤーの鼓動はこれ以上に高鳴っていたのかもしれません。
うららかな4月のある日、お客様のご自宅を訪問していました。
目的の用件が片付いたとき、お客様がパソコンを持って来られて
「こんな映像があるんだけど・・・。編集できる?」
「・・・」
そして、見せられた映像が今回の作品の素材でした。
バイク愛好家のお子様から勧められてGoProを購入され、2月に高校の同窓会メンバーと蔵王へいらっしゃったとき、初めてそれを試されたというわけです。
早速、映像素材を持ち帰って拝見しました。映像素材の長さは2時間30分程度。
GoProはバンドで頭の額に固定されて撮影されています。頭というのは手足のように過激に動かないので、ビデオカメラを固定する場所としては適しています。
とはいえ、スキーで雪面を滑っているわけですから、その振動が伝わって映像がぶれます。画面全体のぶれは船酔いになったように視聴者の気分を悪くさせます。
特に、スキーヤーは周りの状況を確かめるために、頭を左右に振りますが、その急激な動きは視聴者にとって毒です。
そして、もうひとつ、今回初めて気付いたのですが、前方に焦点となるターゲットがないときにも酔ってしまいます。
例えば、前方にスキーヤーが映っていて、目でそれを追っているときは酔わないのですが、スキーヤーがいなくなって雪面の景色だけになった映像が続くと酔ってしまいます。
ホワイトアウトした環境で滑っていると酔ってしまうという話を聞きましたが、これも上と同じような状況なのでしょう。
編集では、これらの視聴者に毒となるような映像をすべてカットしました。
そうして残されたものを見ると・・・。
1日目はどんよりと曇った天気。気温が昼間でも氷点下から下がり、谷底から吹き上げて来る風はさらに体感温度を下げていきました。
その中をスキーヤーは凍えながら滑っていきます。
時々、吹き上げる突風が小雪を舞い上げて、激しくカメラに当たって来ます。そして、キラキラと輝く氷の破片が後ろに吹き飛んでいきます。そのリアル感が凄い!
ひとつひとつの氷の破片がスローモーションで動いている感覚です。
2日目。この日はロープウェイでいきなり、蔵王の山頂付近にまで上りました。最初はガスで視界が遮られていましたが、段々明るくなって視界が開けて来ると別次元の世界がそこにありました。
広い高原に、にょきにょきと大きな樹氷が雪面から頭をもたげているのです。そして、太陽が出てくると、樹氷の影は濃く大きくなり、無数のモンスターが出現した感じです。
スキーヤーはそのモンスターの間をシュプールを描きながら滑走していきます。
ゲレンデは蛇行しながら延びてゆき、傾斜がなくなる平原まで続きます。はるか遠くの山並みもしっかりと見通せ、その雄大な景色を見るだけでも十分に価値があります。
陽が傾き、その日の最後の滑走となるひとときはスキーヤーの極みでしょう。
西に落ちる太陽に向かって、樹氷のモンスターの中をシュッ、シュッとエッジを立ててシュプールを描きながら、雄大に広がるスロープを一気に滑り切ってしまうのです。
蔵王。その響きはずっとスキーヤーの耳から離れないはずです。 - メールマガジン No. 142 2015-06-01