作品名 「わたしのふるさと」
制作 神奈川県男性
作品時間 24分- 相模の国にお住まいのA男さんは奥様のB子さんと共に、ふるさとへ里帰りしました。
A男さんは今年還暦(60歳)を迎えます。そこで、ふるさとのご家族、ご親族の皆さんが、A男さんの還暦祝いを行って下さるというのです。
すでにふるさとの実家では準備万端です。開け放たれた居間に長テーブルが置かれ、その上には地産の食材で作られた料理が隙間のないほど並べられています。地魚や伊勢海老の刺身、握り寿司、煮物、揚げ物、・・・。
皆さんが長テーブルを囲み坐したところで、A男さんのスピーチ。
次に、皆さんから贈られたたくさんのプレゼントをA男さんがひとつひとつ開封して披露しました。A男さんはひとつのプレゼントを開封する度に、そのプレゼントに込められた贈り手の気持ちを斟酌して感無量です。
食が進み、しばらくしてから余興。まずはA男さんから。
A男さんは母のC子さんの手を取り、上座へ。C子さんは今年卒寿(90歳)ですので、還暦の息子に卒寿の母という構図です。
A男さんは左手で母のC子さんの肩を抱き、右手にマイクを持って歌い始めました。声は甘く、こぶしを効かせて熱唱します。
舞台は花のお江戸。孝行息子が田舎から母をお江戸に招いて案内します。上野、浅草、新橋、・・・。まるでお江戸の賑わいが目の前に見えるかのようです。
パチパチパチパチ。
次は卒寿の母のC子さんの余興です。隣の部屋で準備を済ませたC子さんが居間に入って来ました。
「あーら、おばあちゃん!?」と娘のひとりから驚きの声。
『ひょっとこ』のお面をかぶって、ひょうきんに登場です。
指に挟んだ2枚の小皿で巧みにカチカチと音を立て、手は頭より高く上げながら弧を描きます。足の腿も高く上げて踊る、踊る、踊る・・・。
おじさんも飛び込みで踊りに参加し、あいや、あいやの賑わいです。
C子さんは踊りが終わるとお面をはずして、そのまま畳の上に座り、息を整えてから挨拶を始めました。
両手を畳に軽くつけて・・・、
「A男、B子さん、おめでとうございます。A男、B子さんのお祝いで踊りました。
私は良い子供たちばっかりもって幸せです。こんな幸せはありません。ありがとうございました。」
子供たちから、「良かったよ、かあちゃん。」
「D子さん、ありがとうございます。こんな年寄りを抱えて、E子さんと私の二人。とても良くしていただきまして、ありがとうございました。」
子供たちから、「あと10年生きらんばよ。」
「F子、G子、ありがとうございました。H男、I男、ありがとうございました。
J子さん、ありがとうございました。ばあちゃんが忙しくて、仕事ばかりしていて、K男、L子、そして、子供全部、J子さんが見てくれまして、ありがとうございました。
これからもね、みんな、今のように兄弟全部仲良くして下さい。ありがとうございました。」
ビデオカメラで撮影していたA男さんは喉、鼻、目元に込み上げてくる感情のマグマを抑え、噛み砕き、しっかりと飲み込んで、声が出るようになってから叫びました。
「かあちゃん、ありがとう! 本当に良かったよ。」 - メールマガジン No. 144 2015-08-01