作品名 「*** ―Reception―」
制作 福岡県女性
作品時間 72分- 新郎26歳、新婦34歳。
「うん!?」
誰しもが最初に新郎と新婦の年齢を聞いたとき、「大丈夫かな」と心配するのです。しかし、直接、彼らに会って見ると、誰しもが異口同音、「似合いのカップルだね」と言います。
新郎は若いけれども、落ち着いてどっしりとした感じがしますし、新婦はお人形のような顔立ちですので、年齢を感じさせません。二人一緒にいるといい感じなのです。
この似合いのカップルには少し心配事がありました。新婦は長い間、母と娘の二人暮らしでしたので、ご自分が嫁いでしまうとお母様はひとりぼっちになってしまいます。お母様の寂しさを考えると胸が締め付けられる思いです。
さて、結婚式当日、無事に式を終え、そして、披露宴もたけなわとなりました。会場の皆様を前にして、新婦から母への手紙が読まれました。
新婦 : 「大好きな皆様に囲まれて祝福をいただき、(ぐっと声を詰まらせ)、今、嬉しさと感謝で胸がいっぱいです。
お母さん、私が生まれて早いもので34年が経ちました。今日まで大切に育ててくれて本当にありがとうございます。振り返ると予定日より一か月も早く生まれた私は未熟児だった上に、ミルクを好まない、皆が寝静まる頃から夜泣きをする手のかかった子でしたね。
そんな中、元気にすくすくと育ったのもたくさんの愛情を注いでくれて暖かく見守ってくれたお蔭です。
お母さん、小さいときに作ってくれた水玉のワンピースを覚えていますか。
おてんば故に鉄棒でスカート回りをして破ってしまったけど、忘れられないお気に入りの服で、大人になった今でもその水玉は大好きな柄です。
それから、手作りの誕生日ケーキを覚えていますか。
ホワイトケーキにフルーツとバナナのシンプルなケーキだったけど、一生懸命に作ってくれたケーキは今でもどんな店よりも美味しい世界一のケーキです。
お母さんとは家族の中で一番多くの時間を一緒に過ごしたから、言葉を通さなくても通じることが多かったよね。
仕事で疲れて帰った時、何も言わなくてもいつもそこにはその時に食べたい料理を作って待ってくれてました。肩の力が抜けてほっとしたのを覚えています。
こうやってひとつひとつを思い返してみると、どんな時も優しさで包み込んでくれたお母さんがいます。
お母さん、ありがとう。
お母さん、私は今、お母さんの思い描いた花嫁になれていますか。
母として家族を支えてきたお母さんは私の理想像です。そんなお母さんを越える自信はないけど、少しでも近付けるように、これからは自分自身を磨いていきたいと思います。
最後に、**さんのお父様、お母様、初めてお会いしたときから暖かく迎えていただけたことを本当に幸せに思います。まだまだ未熟な私ですが、これからもどうぞ宜しくお願いします。」
新婦の母に問いかける文章を聞いた時、私は思わずカメラのファインダーから目を離し、ハンカチを取り出して目頭を押さえてました。
そして、新婦の気持ちがよくわかる新郎もまた感情が込み上げていました。
新郎 : 「これはヤバイ。これはヤバイよ。」
横で新郎のお父様はまだ若い新郎を心配そうに見ていました。
マイクが新郎に渡され、いよいよ最後の謝辞を述べる時が来ました。新郎はゆっくりとひとつひとつの言葉を噛みしめ飲み込みながら、スピーチを始めました。
新郎 : 「本日はお忙しい中・・・、また遠方にも関わらず・・・、私たち二人のために結婚式に出席いただき・・・、感謝の気持ちでいっぱいです。
これからは良き父、良き母になれますよう・・・、毎日笑顔で助け合いながら
愛情いっぱいの家庭を築いていけるよう・・・、 精一杯頑張りたいと思います。」
その凛々しく堂々とした姿に、会場の皆さんはどこかほっとした安心感をもったのではないでしょうか。
最後の礼が終わった後、新郎のお父様は左手で新郎の肩をがっしりと掴み、そして、軽く揺さぶりました。 - メールマガジン No. 152 2016-04-01