作品名 「九十周年感謝の集い」
制作 ***保育園
作品時間 105分- 朝9時頃、都内のあるホテルのロビーの入り口に着くと、そこには「九十周年感謝の集い」と書かれた大きな垂れ幕が掲げられていました。
今日一日は、ほぼこのホテルを貸し切り状態にしてしまうのでしょう。
さて、記念式典が行われる4階に行ってみますと、準備は万端に整えられていました。数多くの大きな花束は一列に並べられ、会場にお越し下さる方が迷わないように受付番号別に案内の職員の皆さんが立っておられました。
今日は皆さん、日頃の保育服ではなく、華麗なドレス姿です。訪れた市会議員の方が職員のお一人に声をかけられました。
「今日はきれいだね~~。」
「あら、聞き間違えかしら。もう一度、言い直して下さらない。」
「これは失礼。今日も!!きれいだね。」
ニッコリと笑顔で対応されました。
さて、記念式典の開会10分前に、私がナレーションを行ったスライドショー映像が会場に流されました。
開会のことば、理事長による式辞、園長による歩みの説明、記念品贈呈、永年勤続職員の表彰が終わった後、来賓の祝辞です。
市長、市会議員議長、都議会議員の皆さんが次々に壇上で述べる内容は園長先生と職員の皆さんの保育に対する強い情熱とたゆまぬ努力への賛美です。この保育園が築き上げて来た数々の実績をご存じない方はいないのです。
その実績については都の担当課長の方の祝辞がわかりやすいかもしれません。
「都は皆さんご存知のように大きな課題を抱えています。それは8千人に及ぶ待機児童です。だからと言って、保育の質を低下させていいということではありません。
都が目指す保育の内容はすべてこの保育園ですでに行われているのです。このような保育園もあるのかと驚かされました。」
万歳三唱で記念式典を締めくくった後、5階に会場を替えて、感謝の集いが開催されました。ここは天井の高い大ホールとなっていて、前段はステージ、そして、後段はぎっしりと円卓が並べられています。
まずはステージで鏡割りです。一の樽、二の樽、三の樽の周りに関係者が招かれ、前市長による音頭で酒樽が割られました。乾杯。そして、ディナーサービスが始まりました。
次にステージでは獅子舞の登場です。さすがお祭りの町だけあって気風が良い! 獅子に対して会場に訪れた皆さんからあふれんばかりの祝儀袋が渡されます。
職員によるショパンのピアノ演奏、二宮尊徳の合唱、ゴレンジャーならぬホイクマンの参上と次から次へと余興が重ねられて、3本締めでお開きとなりました。
保育園を運営する社会福祉法人の理事の皆さんが並んで、ご参列いただいた皆さんをお見送りします。最後列に並んだ園長先生には「これからも頑張って」と握手を求められます。そして、笑顔で最後のお一人まで見送られました。
撮影としてはこれでおしまいなので、ビデオカメラを片付けようとしていると、「園長先生、皆さんがお待ちです。」と宴会場に戻って行かれました。
あれ、まだ、あるのかしらん?
宴会場に戻ってみると、職員の皆さんが円卓の席に着かれています。
司会者から園長先生にマイクが渡されると、
「司会者から後期高齢者の私にバトンタッチされました。今日は皆さん、本当にありがとうございました。皆さんがこの式典に花を添えたことは間違いありません。
このホテルに飲み放題食べ放題というメニューはないのですが、これからは皆さんの飲みたいもの、食べたいものを無制限にお頼み下さい。箸休めを楽しみながら、それで本当のお開きと言うことにしましょう。」
「それじゃ、スパークリングワイン。」「私も。」「私も。」 ・・・。
これ以上、私が居る場所ではありませんので、園長先生に挨拶を申し上げてそそくさと退場しました。
電車の窓から流れる景色を見ながら、イザヤ書6章がふと頭に浮かびました。
「わたしはまた主の言われる声を聞いた、『わたしはだれをつかわそうか。だれがわれわれのために行くだろうか』。
その時わたしは言った、『ここにわたしがおります。わたしをおつかわしください』。」
あの園長先生が「だれをつかわそうか。」とおっしゃったとしたら、先ほど円卓に座っていたほとんどの職員が「ここにわたしがおります。わたしをおつかわしください。」って言うんだろうな、と思いながら・・・。 - メールマガジン No. 157 2016-09-01