作品名 「平成28年合唱コンクール ***中学校」
制作 ***中学校PTA
時間 167分- 撮影前日、合唱コンクールで使う十数台の機材を一旦、全部セッティングして動作確認を行いました。バッテリなどの補助部材も同様です。
撮影当日、魔物が出ることを痛いぐらいわかっていますから、準備段階で完ぺきを尽くすというのは当然のことです。一寸の隙もあってはなりません。隙があれば、そこから魔物が入って来ます。
過去に、バッテリが切れた、SDカードのメモリが一杯になった、誰かが固定カメラに触って、カメラがあらぬ方向を向いてしまったなどということはどんなに準備を怠らなくても、その日、当たり前のように起こるのです。
それは、一人で同時に十数台の機材を完ぺきに使いこなすことなど到底出来ないということの証なのかもしれません。ヒューマンエラーは必ず起こるということです。
合唱コンクール当日、いつものように午前3時に起床しました。
そして、いつもなら5時からジョギングに出るのですが、この日は早目の4時半からジョギングに出ました。1時間ほど汗を流してシャワーを浴び、朝食を済ませた時は6時15分頃だったと思います。
この日はサブカメラマンのAさんが6時45分に来て、ピックアップする予定になっていますから、それまで30分ほど時間がありました。
ここで何を思ったのか・・・。
先ほどジョギングから帰って来た時、ポストに入っていた手紙を開けると、印鑑を押して至急に返信して欲しい旨のことが書かれてあったので、それを片付けてしまおうと思ったのです。
明日でも全然構わなかったのですが、そのときはそれを片付けてしまおうと思い、印鑑をその文書に押して封をし、わざわざ5分ほどかかるポストまで投函しに行ったのです。
投函から帰って来て、一仕事終えたなと椅子に座って、ボーっとしているとAさんから携帯に電話がかかって来ました。
「すみません、5分遅れてしまいました。今、到着しました。」
「エッ!」
確かに時計は6時50分を指しているではありませんか。自分は何をしていたんだろう。目は開いていても頭の中は眠っていたんです。
これはいけない、とすぐに着替えて、機材を運び出し、Aさんの車に積み込みました。Aさんは高速道路をすっ飛ばして現地に到着。当初の到着予定時刻を10分ほどオーバーしていました。
でも、落ち着いていれば何ということはなかったのです。時間はたっぷりとあるのですから。
職員室に行き、挨拶をした後に、本日合唱コンクールが行われる体育館に入り、機材の設置に取り掛かりました。固定カメラを一通り設置した後、最後にセンターマイクを上部から吊り下げる作業を行います。
ステージ前の上部にネットを張るためのワイヤーが左右に引っ張られて設置されています。このワイヤーからひもを垂らしてマイクを吊り上げるという作戦です。
そのためにはひもの一端に重しを付けて放り投げ、上部のワイヤーの上を越えていかなければなりませんが、ステージ下からではワイヤーまでとても放り上げられるような高さではありません。
そこで、体育館の左右に張り出した2階部分に一旦、ひもをつけた重しを投げ上げて、そこからさらに上部のワイヤーめがけて、重しを投げ上げるという2段階の手順で進めることにしました。
まず、30メートルのひもなんですが、前日、もつれないように束ねて、丁寧に結んでいたのです。ですから、慌てずに結び目を解いて、ゆっくりと束をほどいていけば何の問題もなかったのです。
ところが、慌てていた自分は結び目を解くことと、束をほどくことを一気にやってしまったのです。ぐしゃっともつれてしまった30メートルのひもは容易にほどけません。
時間はどんどん経っていく・・・。このときばかりは声を出して自分に言い聞かせました。
「落ち着け。時間はたっぷりとある。ゆっくりとやれ。」
ほどき終わるまでの時間は実際にどれくらいかかったのでしょうか。わかりません。でも、自分の中では1時間にも2時間にも思える時間でした。
さて、次にひもの一端に重しを付けて、2階に放り上げました。成功!
そして、2階からワイヤーの上部を目指して重しを放り投げたのですが、ワイヤーの上を越えずにワイヤーに取り付けられているグリーンのネットに引っかかってしまったのです。さらに悪いことに重しとネットが絡んだまま動かなくなってしまいました。
”どうするんだ。センターマイクが設置できなければ、収録システムに致命的な欠陥が生じてしまう。”
”落ち着け。なんとかなる。いや、なんとかする。”
ひもを何度も何度もゆるめ、ひもを左右に動かしました。
”神様、どうか・・・。”
とうとう重しがずりずりと落ちて来ました。
”救われた! 神様、ありがとうございます。”
そして、予定通り、すべての機材をすべて予定の場所に設置して、撮影は始まりました。
6時間後、撮影は完了し、すべての機材を撤収しました。
翌日、各機材の収録データを確認したところ、固定カメラのひとつのバッテリが途中で切れて、最後の部分が収録できていないことがわかりました。
今年も魔物が出ました。本番当日には必ず何かが起こるのです。 - メールマガジン No. 160 2016-12-01