作品名 「仏壇の花」
制作 オリジナル・シー・ヴイ
時間 7分- 北九州の実家に戻って来て、まず最初にやったことは仏壇に花、御飯(おっぱん)を供え、焼香したことです。
信心深かった祖母は毎日欠かさず、仏壇の前でお経を上げていましたし、バリバリのビジネスウーマンで宗教には無縁と思えた母も父が亡くなった後は毎日のようにお経を上げていました。
ここで、私だけが何もしないというのはご先祖様に申し開きが出来ませんので、信心深くない私でも出来ることをひとつひとつやっていくことにしました。
さて、仏壇の花と言えば、定番の菊。祖母や母の時代に菊以外の花が供えられたということは記憶にありません。
そこで私も仏壇用の花として、菊を買いに行くことにしました。
1月のことです。近くの商店街の生花店の店先に3-4本の菊が束ねて置いてあり、仏壇用という表示がありました。
「こんにちは。仏壇用の花が欲しいんですけど・・・。」
店奥からおかみさんが出て来て、
「ハイハイ、仏壇用の花ね。今は丁度チューリップが出てくるときで、皆、これを待っていたのよ。悪いことは言わないし、まけておくからこのチューリップを持って帰りなさい。」
と、5本ずつ束になったピンクのチューリップ2セットを渡されました。
「お兄さん、チューリップの活け方を知らないでしょ。チューリップは10日程経ったら、お辞儀をしてくるので、そのときは茎を10センチ程切ればシャンとするよ。長持ちするから・・・。」
そのまま持ち帰って、仏壇に供えていた萎れた清楚な菊と交換してピンクのチューリップを活けました。
なんか、蕾のチューリップというのは妙に色っぽいんです。ぴっちりのチャイナドレスを着ている感じ。それが10本もあるんですから、仏壇全体にムンムンの色気が出て来ました。
ご先祖様は鼻血出さなきゃいいけどなあ。
ひと月程経って、チューリップが萎れて来たので、再び、商店街の生花店に買いに行きました。
「仏壇用の花を下さい。」
「そうね。今はこれかなあ。」
そう言って作ってくれたのが、ピンクのスウィートピーに黄色のフリージア。
「フリージアはまだ蕾だけど段々と咲いて来て、きれいになるわよ。」
持ち帰って、仏壇に供えるとかわいらしいのです。そうそう、若い時の松田聖子のよう。
またひと月程経って、スウィートピーとフリージアが萎んで来たので、再び、商店街の生花店に買いに行きました。
「仏壇用の花を下さい。」
「そうね。これからはカーネーションかな。それにしても、お兄さん、感心だね。仏壇用の花をまめに買いに来るとは・・・。
最近の人は面倒臭がって、仏壇用の花を造花で済ませることも多いと
いうのに・・・。
それじゃあ、桜をサービスするから持っていきなさい。」
「エッ、この時期に桜があるんですか。」
「生花店の花というのは季節に先立って咲かせるものなのよ。」
渡された花を持ち帰って、カーネーションは仏壇に、そして、桜の小枝は床の間に飾りました。
そして、3月中旬には床の間の桜は満開の花を咲かせていました。ご先祖様もさぞかし驚かれて、喜んでいるに違いありません。
めでたしめでたし。 - メールマガジン No. 164 2017-04-01