作品名 「統合への日々」
制作 ***中学校
時間 7分- ある中学校の先生から電話がかかって来ました。
「今度、創立70周年記念の行事を行うので、そのスライドショーの作成を依頼したいのです。」
「わかりました。場合によっては長い歴史の年表などを作成したり、説明のためのナレーション台本を作成しなければならないので、関連する資料をお送りください。」
「いえいえ、そんな大それたものではないんです。約10年前にふたつの中学校が統合されて現在に至っているので、その10年前の統合のときの写真をスライドショーにしていただければいいのです。」
「・・・・」
わかったような、わからないようなスライドショー作成の依頼なのですが、お断りする理由もないのでお引き受けすることにしました。
全体像を掴みたいので、早い段階でいろいろな資料を送って下さるようにお願いしたのですが、お忙しいのでしょうか、なかなか資料が届きません。
漸く行事開催の約一月前になって、スライドショー用の写真が送られて来ました。
封筒の中には、写真のデータが書き込んでいるDVD1枚だけが入っていました。その他のメモなどは一切なしです。
そのDVDの中には約100枚の写真が入っていましたが、それだけです。説明文などは一切なし。
うーん、これだけで何が出来る???
いやいや、私の想像力を駆使して何でもやっていいというのであれば出来ないことは何もないのですが、それがお客様のご要求を満たすかは大いに疑問。
そこでもう一度、先生に「何かきっかけになる資料はないでしょうか」と要求をしてみますと、一冊の記念誌が送られて来ました。
「創立47周年記念誌」
これは統合後廃校になってしまった中学校の最後に発行された記念誌なのです。
6800名の卒業生を世に送り出しながらも、少子化という時代の流れの中で、ここに歴史の幕を閉じなければならなかった無念さが滲むように伝わって来ます。
当時の校長先生は3年後に迫った50周年の記念行事をPTAの皆さんと協議をしていたと言いますから、この統合の話はいかに寝耳に水のことだったのかがわかります。
それでも生徒たちの将来を考え、ご自分の職務を全うされようとしている校長先生の姿が目に浮かびます。
「本校は、いくら生徒数が少なくとも志や精神は不変であり、生徒一人ひとりを大事にし、共に学び、共に育つという目標・方針は変わりません。 『通わせてよかった、学んでよかった』と言える学校作りにたえず努力し、混乱なく両校が統合になることが大きな責任だと自覚しております。」
そして、校長先生はこの歴史に幕を閉じる最後の一年間をどのようなお気持ちで生徒たちに接していたのかを想像しますと胸が詰まります。
この瞬間、私はこのスライドショーをどのようにすべきなのか、いや、何をしなければならないのかが鮮明に脳裏に浮かびました。もう何も迷うことはなかったのです。 - メールマガジン No. 166 2017-06-01