作品名 「民宿『***』」(未完成)
制作 オリジナル・シー・ヴイ
撮影 5分- 今年の春先、兄夫婦から誘われました。
「民宿『***』。泊るところは離れになっているし、とても広いわよ。パンも自作出来るし、楽しいよ。何と言っても民宿を経営してるご夫婦自ら作った野菜で食べきれないほどたくさんの料理が出るの。
あっ、そうそう、近くにオートポリスがあるわ。」
「何、それ。オートポリスって? 自動警察???」
「ノンノンノンノンノーン! 鈴鹿サーキットのような九州におけるモータースポーツの聖地よ。」
「へぇ~~~。そんじゃ、行ってみますか。」
向かうは大分県日田市。ところが途中から急な山道になり、車がすれ違えないほど狭い道が延々と続きます。
「本当にこんな山ん中に民宿があるの?」
と言ってる内に少し開けた山間に出て左に曲がり、少し進むと右手にありました。主屋と離れ、それにパン工房の3棟の家が建っており、民宿を経営しているご夫婦は主屋に、私たちのような客は離れに泊ることになります。
早速、主屋のご夫婦にあいさつに行きました。
「今回もお世話になります。宜しくお願いします。」
「こちらこそ。着くのが少し早かったわね。すぐにパンを自作してみる?」
と奥様から声をかけて下さったのですが、最近、大怪我をされたそうで足を引きずっているお姿が痛々しい。
でも、背筋がピンと伸びていて立ち姿がきれいです。後で地元で発行された新聞の記事を読むと、お茶や陶芸、お謡いに弓道など多彩な趣味をもっておられ、しかもすべて師範級の腕前とか・・・。
なんだか頷けるのです。
「まだ着いたばかりですので、離れで少し休みます。パン工房でのパン作りは少し後で・・・。」
その間に、私は一人で周りを散歩してみました。畑から山の傾斜部分にタラの木がたくさん植えてありました。
後で聞くと、タラを千本も植えてるとか・・・。半端な数ではありません。
そして、主屋の方に回り、庭を少し見させて頂いたのですが、なんだか違う・・・。垢抜けているのです。何でもかんでも木を植えて、ごちゃごちゃして作っているのではありません。
バランス良く配置された庭石があり、その間に程よく木が育てられています。小さな庭の中に大きな広い空間を感じるのです。普通の農家とは少し違う・・・。
その後、パン工房で奥様のパン作り教室が開かれ、私たちは自ら作った出来立てのパンを頂きました。素人が作ったとは思えないほど、ちまたの店に出してもおかしくない出来栄えです。
陽が沈むとご夫婦は食材をもって離れの方にやって来られました。ここで奥様のご自慢の手料理が披露されました。次から次へと、工夫された美味しい手料理の皿が山のように出されます。
それらを前にして、ご主人とはお酒を酌み交わしながら、お話しを聞かせて頂きました。
「庭がとてもきれいですね。普通の農家とは違うような・・・。」
「10年以上前に、北九州の門司からこちらに引っ越して来て、農業を始めたんです。この地域の皆さんには大変お世話になったので、その御恩返しと思って、少しでも多くの人にこの地域の良さを知ってもらいたいと、民宿を始めたんです。」
私はふと、最近、父の蔵書の中から読んだ本を想い出しながら尋ねました。
「表札を拝見すると『宇都宮』さんとなっていますが、豊前・城井谷の宇都宮氏と何か関係があるのでしょうか。」
「ええ、そうなんです。家系図を見るとところどころ途切れていますが、先祖はそうだと言われています。」
なんとご主人は豊前・宇都宮氏の末裔でいらしたわけです。世の中、何が起こるかわかりません。この山の中でこんな出会いがあるとは・・・。 - メールマガジン No. 170 2017-10-01