作品名 「Homer sometimes ... - Climbing in Kalymnos -」(後編)
制作 Original CV
作品時間 59分- 「折角、ギリシャまで行くのです。クライミングをしただけで帰って来るのはあまりにもったいない。」というAご夫妻のご意見で、カリムノス島から移動して、アテネに1週間弱滞在しました。
実を言うと、それまで私はクライミング以外の目的で、そんなに長く海外に滞在したことはなかったのです。
Aさん曰く、「ヨーロッパ各地の遺跡や文化施設を回ってそのひとつひとつを見ながら、その原点を追っていくと、それらはすべてギリシャに繋がり、ヨーロッパ最古の叙事詩を書いたホメロスにたどりつく。」
だからこそ、アテネをじっくりと見ていた方が良いということなのでしょう。
パルテノン神殿のあるアクロポリス、国立考古学博物館、ペルシャ戦争の舞台となったサラミス島など毎日、毎日、歩き回りました。クライミングよりもこちらの方が疲れましたが、百聞は一見に如かずの言葉通り、これまで本を読んで想像していた以上にはるかにスケールの大きい世界がそこに広がっていました。
その中でも最も心を揺さぶられたのはミケーネ遺跡でした。
ミケーネ遺跡はペロポネソス半島の中にありますので、私たちだけでは簡単に行けません。そこで、ミケーネ遺跡のバスツアーに申し込んだのです。朝、バスに乗り込むと女性のバスガイドがマイクを持って英語で話し始めました。
「皆さん、こんにちは。ギリシャ語で『こんにちは』は『カリメラ』。『カラマリ』じゃないわよ。」(『カラマリ』はイカのリング揚げ。)
笑ってやった方がいいんだろうなと思いつつも・・・。そうやって、バスツアーは始まりました。
アテネから出発して、両側が切り立った深い崖になっているコリントス運河を通り、ペロポネソス半島に入りました。エピダヴロス野外劇場を見た後、何とも美しいナフプリオンの港を通過。時間があるなら、ぜひとも一泊したい場所。そして、アルゴス平野に出て、いよいよミケーネ遺跡のある小高い丘に入っていきました。
バスが駐車場に停まると、そこから丘の頂上を目指して、歩いて登ります。遺跡の入り口には獅子の門があり、大きな三角石に2頭の獅子が彫られています。威厳という言葉が相応しい。その門を通って右手に、アガメムノン王の黄金のマスクが発掘された円形墓地があり、トロイを攻めたギリシャ軍総大将のアガメムノン王が居住していた王宮を通りました。そして、一番高いところにあるメガロンに出ると、アルゴス平野が下方に一面に広がっていました。丘の上からの絶景です。そのはるか向こうは海です。
「あの海からトロイに向けて、ギリシャ軍は出発していったんだ。ホメロスがヨーロッパ最古の叙事詩として書き、それを神話ではないと信じて発掘したシュリーマン。その事実がここにある。」
そう思うと膝ががくがくと震えて来ました。
「ここがヨーロッパ文化の出発点なんだ!」 - メールマガジン No. 180 2018-08-01