作品名 「クライミングと歴史探訪 ~スペルロンガ・フィレンツエ・ローマ~」(前編)
制作 Original CV
作品時間 59分- ギリシャの次は古代ローマ。ヨーロッパの歴史を学ぶ人には当然の順番でしょう。
そこで、今回の旅は古代ローマがテーマなので、クライミングはローマから列車で1時間程離れたスペルロンガという岩場を選びました。そして、もうひとつ、今回の旅の特長はレンタカーを使わず、すべて公共機関である鉄道やバスを使うということ。
安くてすむということと、時間に余裕があるから出来ることなのですが、日本とはまったく違った交通システムに面食らいました。
まずはチケットを買うというのはどこでも同じ。その後が違うのです。日本を含む東アジアの鉄道では自動改札機があり、そこにチケットを通して、プラットフォームに入っていきます。しかし、イタリアでは自動改札機などはなく、そのままプラットフォームに入ることが出来ますが、そのまま列車に乗ったのでは無賃乗車として捕まってしまいます。
ではどうするのかというと、駅の柱の横などところどころにチケットの自動刻印機が設置してありますので、そこにチケットを入れ、そのときの時刻を刻印してもらって始めてチケットが有効になるのです。有効時間は1日だったかな?
この自動刻印機のやり方だけを覚えておけば、鉄道、バスともすべて同じなので、すぐに慣れてしまいます。
次に鉄道です。発車の場合、日本ではブザーが鳴ったりして安全を喚起したりしますが、イタリアではそのような合図はありません。何の予兆もなく、時刻になると静かに発車します。下車の場合、日本では自動的に列車の扉が開きますが、イタリアでは手動すので、自分で扉を開けて降りなければなりません。また、事前に下車駅の案内など放送されませんので、自分で常に注意深く、どの駅に着いたのかをチェックしておかなければなりません。
でも、まだ鉄道は楽です。やはり、公共機関の核心はバスでしょう。このバスを自由に乗りこなすことが出来れば海外へ出ても何も恐れるものはありません。
ローマから鉄道で移動して、スペルロンガのホテルに入った後、早速、バスのチケットを売っている店に行きました。そのおじさんに、翌日から行こうとしている岩場に最も近いバス停留所の情報を聞いたのです。
「この地図の岩場に行きたいのだけど、どこのバス停留所で降りればよいでしょうか。」
「あーあ、それなら4つ目のトンネルを過ぎたバス停留所で降りればいいよ。」
「???」
初めて行くところなのに、いきなり4つ目のトンネルを過ぎたバス停留所と言われても・・・。実はスペルロンガではバス停留所それぞれに固有の名前を与えてないのです。日本では「新宿3丁目」とか「新橋1丁目」とか、バス停留所に固有の名前が与えられているのですが、それがないので、おじさんのような回答になってしまいます。
翌日、バスに乗った私たちはバス運転手に行きたいところの地図を見せて、その近くのバス停留所で降ろして欲しいと頼みました。バス運転手は頷いてバスを走らせ、「ここだよ」と言って私たちを降ろしてくれたのですが、そこはまったくの水平な砂浜。岩場の影も形もないところ。私たちに泳げって言ってるの?
近くにあったレストランへ行き、その従業員に地図を見せて、岩場のある方向を聞いたところ、この道路上のずーーっと向こうだということです。仕方ない。私たちは荷物を担いで1時間以上延々と歩きました。そこで漸く岩場へつながる小さな階段を見つけたのです。
クライミングを終えて、バスが通る元の道路まで戻って来たのですが、ホテルの方に向かう車線上にバス停留所がありません。手を振ればバスが停まるかとも思ったのですが、非情にもバスは停まってくれませんでした。窮しました。
その時ほど携帯電話がありがたいと思ったことはありませんでした。ソフトバンクに移行する前のボーダフォンの携帯を持っていたのですが、日本では繋がりにくくて不満でしたが、さすがヨーロッパに行けばどこでも繋がりました。その時宿泊していたホテルに電話をかけ、状況を説明し、ホテルからタクシーを呼んでもらったのです。
しばらくしてタクシーがやってきて乗り込むとドライバーは女性でした。話を聞くと夫婦でドライバーをしているとのこと。私たちにとっては女神のように見えたのです。
数日が経って、クライミングの休暇日に隣町のガエタに行ってみようということになりました。再び、バスに乗るのですが、ガエタが終点というバスはありません。いずれもガエタを通って、他の町に向かうバスなのです。
さて、バスに乗って周りの風景を見えていると、街中に入って来て賑やかなところに出て来ました。しかし、どこで降りればよいのか、そのタイミングがわかりませんでした。どこで降りようかと迷っている内にバスは街から出てしまい、田舎の風景に変わっていきます。
「Aさん、降りるタイミングを逃したみたいだけど、どうします?」
「こういうときは終着駅まで行くしかないじゃない。」
というわけで、終着駅で降りました。ここはフォルミアという地名なのですが、スペルロンガ、ガエタから見てどのような方向になるのかがわかりません。早速、駅へ行き、地図を買って確認しました。「あ、なるほど、ここまで来ちゃったんだ。戻らなきゃ。」
再び、ガエタ方面に行くバスに乗りますが、ここもガエタが終点というバスはありません。ガエタを通り過ぎてどこかの町に行くバスなのです。
今度こそ、ガエタでちゃんと降りなきゃ。作戦はひとつだけ。乗客が最もたくさん降りるところで、私たちも降りる。
見事、作戦は成功し、ガエタの中心部に着きました。一応、スペルロンガへ戻るため、スペルロンガ方面へ行くバス停留所を捜しておこうということになり、街行く人に英語で尋ねるのですが、誰一人、英語をしゃべれる人がいません。町の中心部をあっちでウロウロ、こっちでウロウロするのですが、バス停留所らしいところはどこにもないのです。今度も窮しました。
すると、バール(イタリアの喫茶店)の中から、手を振る人がいたのです。誰かと思ってバールに入っていくと、あのタクシードライバーの夫婦がそこでコーヒーを飲んでいたのです。
「ここで何してんの?」
「スペルロンガ行きのバス停留所を捜してたんだ。」
「あ、そう。まあコーヒー一杯おごるから、楽にすれば・・・。」
と言われて、私たちはコーヒーをおごってもらったのですが、同時に私たちの悩みも解決しました。彼らのタクシーに乗って、スペルロンガのホテルに戻ればいいのだから。
https://www.originalcv.com/climbing/1606videoWorks/aWork/index.php?wnum=25 - メールマガジン No. 181 2018-09-01