品名 「クライミングと歴史探訪 ~スペルロンガ・フィレンツエ・ローマ~」(後編)
制作 Original CV
作品時間 59分- 阿部寛、上戸彩共演で『テルマエ・ロマエ』という映画が2012年に上映されました。
この冒頭のシーンで、フォロロマーノが完全に復元されている舞台設備に驚きました。「あー、ローマ帝国全盛の五賢帝時代に、フォロロマーノはこのような姿をしていたんだろうなあ」と感心してしまったのです。
映画の各シーンでのロケ地も完ぺきで「このシーンは元老院の前で、そして、このシーンはパラティーニの丘で撮ったんだ」とこちらにも重ねて感心してしまったのです。ロケ地の選択には地元イタリア人スタッフが十分に関与しているに違いないと思いました。
おー、ローマ!
紀元前753年4月21日、ロムルスが建国して以来、数々の栄光と挫折を繰り返して来たこの都市。何から話してよいのか・・・。
ローマ建国からローマ帝国滅亡までは、塩野七生氏の『ローマ人の物語』(文庫本で43冊)、Edword Gibbonの名著『The History Of The Decline And Fall Of The Roman Empire』(6巻、私はこれを読み切るのに2年かかってしまった)がありますので、そちらで堪能していただくとして、今回は私が見て来たローマの教会について話してみたいと思います。
サン・ジョバンニ・イン・ラテラーノ大聖堂
この教会こそが中世の始まりを告げると言ってもよいのではないでしょうか。キリスト教を初めて公認したコンスタンティヌス帝が314年に建設し、法王に寄進した教会です。正面の天蓋の棚の中にあるペテロとパウロ像の頭の中にはそれぞれの頭蓋骨が納められていると言われています。現在でも新しい法王の就任式はこの教会で行われます。
私たちはこの教会に入り、大聖堂の中に並べられていた席に座っていたのですが、急に周りが慌ただしくなって来ました。そのまま気にせず、席に座っていたらミサが始まったのです。
「しまった。出るタイミングを失った。」
世界中から集まって来た多くの神父たちが列を作って入場して来ました。大聖堂の中をぐるりと回り、厳粛にミサが始まりました。
私には「・・・パードレ・・・パードレ・・・パードレ・・・」しかわかりませんでしたが、説教が終わり、アフリカから訪れた信者たちのミサ曲が歌われ、そして、最後は席に座った周りの人々と握手をして終わりました。私にとっては大変貴重な体験でした。
この教会の隣にあるラテラノ宮殿に歴代の法王は住んでいたのです。ところが、法王がアヴィニョンに幽囚されるという事件が発生して以降、法王の住居はヴァチカン宮殿に変わりました。
つまり、ヴァチカン宮殿とはひとつの要塞なのです。そして、ここにその後の歴代の法王が美術品を収集し始めました。免罪符を発行しなければならなかったほど高価な美術品収集や礼拝堂建設のために・・・。後に数百年戦争が続くカトリックとプロテスタントの火種がここにあるのです。
このヴァチカン宮殿(博物館)を訪れるとき、Aご夫妻に次のように言われました。
「ここはチケットの予約なんて出来ないから、入場する前に1-2時間は並ばなければならないけど、それを押しても見る価値は十分にあります。一生に一度は必ず見ておかなければならないところです。」
驚きました。
入場して以降、延々と続く価値の高い美術品の陳列。次の部屋も、次の部屋も、次の部屋も・・・。そして、圧巻はシスティーナ礼拝堂。世界中から訪れた入場者はトコロテン式に押し出されていくのですが、ここの天井・壁に描かれているアダムとイヴの創造を始めとしたフレスコ画を1分、1秒でも長く見ていたいのです。
係員は「前へ進んで下さい。前へ進んでください。・・・」と掛け声をかけているのですが、入場者たちはこの数分間のために世界中から集まって来たと言ってもよいほどなので押されても踏み止まって、結局、ごった返していました。
次はラファエロの間。アテネの学童を始めとした壁いっぱいのフレスコ画が見る者を圧倒します。
このラファエロの間を出て、次の展示物を陳列している部屋に入ったとき、私はもう疲れて見ることに飽きてしまいました。次の部屋の扉の中にその次の部屋の扉が見え、その次の部屋の扉の中にその次の部屋の扉が見え、それが延々と続いているのです。フラクタルの世界に入ったように・・・。
中国歴代の皇帝によって収集された宝物のある台北の故宮博物院、大英帝国が威信をかけて世界中から収集した遺跡物を有するロンドンの大英博物館。いずれもすごいとは思いますが、このヴァチカン宮殿を見てしまったら、何とちっぽけに見えてしまうことか・・・。
私はずばり、ヴァチカン宮殿の中に世界の富の半分はあると信じています。富とは何かをここに来て初めて知るのだと思うのです。 - メールマガジン No. 183 2018-11-01