作品名 「シチリア、その夢」(中編)
制作 Original CV
作品時間 47分- 旅はいつも想定通りに進むとは限りません。現地に行ってこそ、知る事実もあります。
シチリアのパレルモ。貧富の格差がこれほど大きいとは・・・。
ある日の未明、日の出を撮影しようと暗いうちからホテルを出て海岸沿いにある公園で三脚を立てていると、浮浪者が寄って来て、流暢な英語で「パスポートを失くしたんだ。1ユーロ、恵んでくれよ。」と声をかけて来ました。
バルデシのクライミングエリアの中に洞窟があり、近付いてみると、そこに人が住んでました。
テーブルマウンテンの下にある公園に入ると、まだ明るい昼下がりであるというのに、明らかにそれとわかる女性が立っていました。
メイン通りからひとつ入った路地を歩いていたときのことです。私の横で急に車が停まり、ウィンドウを開けて話かけて来ました。
「良い写真が撮れたかい。車道側の肩にカメラをかけていたら、二人組のバイクに盗られちゃうぞ。気を付けろよ。」
私たち3人はクライミングの帰りに、小さなハム・チーズ屋に行きました。店は狭いので私たち3人がそれぞれもつリュックは大きくて邪魔です。そこでリュックを店の玄関の横に置き、一人が見張りに立ち、二人が店の中に入ってハム・チーズを買おうとしていたときのことです。もう一人のお客さんが入って来て、その店の女主人にひとこと言うと、その女主人は私たち二人に突然、「ピーチクパーチク雲雀の子」状態になってけしかけて来ます。何か悪いことでもしたのかと思うと違うんです。
「リュックを外に置いていたら盗られちゃいます。すぐに店の中に入れなさい。」
海外の旅に慣れている私たち3人だと思っていましたが、パレルモに住む彼らから見ると、無防備同然の危なっかしい日本人としてしか映らなかったようです。逆に言えば、旅の期間中に盗難などの事件に巻き込まれなかったことの方がラッキーだったということなのでしょう。
地中海の真ん中に浮かぶ美しい島、シチリア。
しかし、地中海の真ん中にあるという地理的な特長はそこがいつの時代においても重要な戦略的拠点であったことを物語っています。シチリアを支配した民族はギリシャ人、カルタゴ人、ローマ人、ゲルマン民族、アラブ人、ノルマン人、イスパニア人・・・。新しい民族が来るたびにシチリアの人々は新しい人間関係を築こうとしたのであろうし、逆に良好な人間関係が築けなければ自らの防衛は自らで行うというマフィアの組織が生まれる下地がそこに出来上がったのでしょう。
フランシス・フォード・コッポラ監督の映画「ゴッドファーザー」はパレルモをロケ地として制作しています。パート3のクライマックスシーンであるコルレオーネ家の令嬢が凶弾に倒れるシーンは豪華なロイヤルボックスがあるマッシモ劇場で撮影されています。
このパレルモの街を歩き、その街の雰囲気を直接肌で感じることによって、「ゴッドファーザー」という映画がもつ深い人間の絆に少し近づけたように思います。そして、ニーノ・ロータの「愛のテーマ」が頭の中にいつでも響き渡るのです。 - メールマガジン No. 185 2019-01-01